Amazonの巧妙な激安出品の実態


 アマゾンの「1円出品」「激安出品」が実は詐欺なのかもしれない――。そんな話を聞いた読者は「そもそも1円で出品されている商品があるのか」と驚いたかもしれない。

 「アマゾン1円詐欺」とも呼ばれる、傍目には摩訶不思議な、しかしその背景を探ってみると実に巧妙な、電子商取引サイトの仕組みを活用した新種の詐欺とはどのようなものなのだろうか。

■販売業者はアマゾンと「セラー」に分かれる

 アマゾンを普段からお使いの方はご存じだろうが、アマゾンを通じて商品を販売している業者は大きく2つに分けることができる。ひとつはアマゾン自身のリテール部門で、「この商品は、Amazon.co.jp が販売、発送します」と書かれている場合、それはアマゾンのリテール部門が仕入れ、販売している商品である。

 それ以外は“セラー”と呼ばれ、アマゾンに販売業者として登録し、アマゾンの決済システムを利用して商品を販売する「アマゾンマーケットプレイス」という仕組みを用いる。リテールとセラーは競合する間柄と言える。セラーが販売する商品でも「お急ぎ便」が無料で使えるなど「アマゾンプライム」に対応しているものもある。

 もっとも、アマゾンを頻繁に利用している方ならば、ひとことでセラーと言っても、製造メーカーや輸入代理店が自社管理のECサイト代わりにアマゾンのシステムを活用しているケースもあれば、セレクトショップのネット版のような会社が、アマゾンのシステムを間借りして営業するケースなどさまざまであることは、なんとなく感じているのではないだろうか。

 そうした中に、本を1円で販売している店が多くあることにお気づきの方もいるだろう。ただし、1円で古本を販売している業者は以前から存在しており、脱法性があるわけではない。彼らは書籍をメール便(送料100~160円程度)で安価に配送できることに対し、アマゾンの書籍配送料が257円固定であることなどを活用し、アマゾンの販売手数料を差し引いても残る差額で利益を上げているのだ。

「アマゾン1円詐欺」の背景にあるもの
 しかし、今回の場合は話が異なる。在庫管理をアマゾンが行っていない場合、発送先をセラーに通知する必要がある。つまり、購入者の個人情報がセラーに渡されることになるわけで、「アマゾン1円詐欺」の背景には個人情報収集がある。

 実際にどこまで紐付けているかはわからないが、売買契約が成立した相手はどの商品を購入したかも知っているわけで、「どのような商品をほしがっている人物か」といった嗜好属性と個人情報のセットを入手できる。

 ここでは「アマゾン1円詐欺」と書いているが、実際には必ずしも1円で出品されているわけではない。圧倒的に低価格で、アマゾンのランキング上位に位置する商品で行われることが多い。

■あの手この手で「到着遅れ」を正当化

 安さで釣って購入契約をさせるものの発送する商品は存在しないため、アマゾンから実際に入金があるまでは、あの手この手で商品到着の遅れを正当化するメールを送り続ける。たとえば海外発送であることを理由に“遅くなる”と通知しておき、ギリギリのタイミングで今度は荷物の追跡番号を送って安心させる(実際には荷物は送っておらず、追跡番号もデタラメ)。

 業者はアマゾンからの入金を確認した段階でセラー契約を解約してしまう。実に腹立たしいと感じるかもしれないが、消費者に対してはアマゾンが返金を保証するため被害は及ばない。

 しかし、こうしたことを繰り返していれば、アマゾン側も対策を練ってくる。そこで詐欺業者は上記の取引で得た、善意の第三者の個人情報を用いて再度セラー登録を行う。こうすることで、(おそらくは海外に在住する)詐欺業者は、実際に日本に在住している人の個人情報を用いて詐欺を働けるのだ。そして、そこで新しい顧客の情報を得たならば、その情報を用いて新たなセラーとして登録。これを繰り返すことで被害を拡大する。

 アマゾンマーケットプレイスのセラーからの購入においては、セラーの評価システムもあるため、極端に悪い点数がついているセラーから購入しなければよいと思うかもしれない。しかし、彼らはセラー登録を何度も繰り返し、途中までは正当な理由を振りかざして問題発覚の先延ばしをしている。詐欺業者であることが明らかになったときには、別のIDに乗り換える頃合いだ。

 悪質業者の狙いは個人情報の収集ではないかと書いた。ではまったく利益が得られないかと言えば、そうではない。たとえ1円、あるいは対象商品の標準価格として圧倒的に安価であったとしても、そもそも発送する商品がないのだから、振り込まれた売り上げはまるまる利益になる。

アマゾンも被害者だが…
 ここで問題なのは、詐欺に遭った購入者の支払分は返金が保証されるものの、個人情報の流出と、それに伴う被害(自分の個人情報を詐欺業者のデータとして使われるなど)に関してはまったくフォローされていないことだ。

 もちろん、返金を負担し消費者の損害を相殺するアマゾンも被害者としての側面がある。悪質業者が入っていることによって得られるメリットなど何ひとつない。

 しかし、アマゾンにも加害者としての側面はある。アマゾンのシステムを用いて商品を購入した結果、個人情報が漏れたり、詐欺の片棒を担いだような形になってしまっている利用者からすれば、「アマゾンの対策が行き届いていないからだ」と矛先を向けたくなるだろう。

 一方、利用者の自己責任という言い方もできる。販売者のプロフィールや評判をきちんと確認せずに購入手続きを行った利用者にも責任の一端はあるというわけだ。確かに「1円」などのありえない価格を信じた結果による被害と考えれば、そうした意見にも説得力はある。しかし、中古書籍などでは1円販売が現実に存在しているため「ついつい」買ってしまう人が後を絶たないのかもしれない。

■極端に低価格な商品は警戒すべき

 こうした問題を解決するためなのか、アマゾンはマーケットプレイスへのセラー登録に関して審査のハードルを上げているようだ。それは今回のような詐欺案件が横行しているのに加え、コピー商品をあたかもオリジナル商品のように販売する業者もいるからだ。

 利用者側としては、今回紹介したような業者がいることを念頭に、極端に低価格な商品に対しては「ありえない価格だからおかしい」と警戒するほかない。安価な商品には理由があるはずだ。その理由が明らかにされていない場合、もしくは納得できない場合には手を出すべきではない。

 このような詐欺業者が今後も横行し続ければ、プラットフォーマーとしてのアマゾンに疑問符を投げかけざるをえない。現在は盤石の体制を誇るアマゾンだが、よりよい解を見つけられないようであれば、ユーザーはもちろん、アマゾンマーケットプレイスに参加する企業からの信頼感を失うことになる。