村田諒太「小さく感じた」


ボクシングのロンドン五輪金メダリスト村田諒太(31=帝拳)が世界初挑戦するWBA世界ミドル級王座決定戦が2日後に迫った。17日、トリプル世界戦(20日、東京・有明コロシアム)の予備検診が都内で行われ、6選手は異常なしと診断された。対戦するアッサン・エンダム(フランス)と対面した村田は「正々堂々戦いたい」と誓った。出身の南京都(現京都広学館)高OBから「世界基準」の横断幕が制作され、部訓「豪気」のままにリング上で奮闘する。

 午後1時40分、都内のホテルの一室で初めて2人が交錯した。医師による診断を受けるエンダムの背後に村田が立つ。数秒後、カメラのフラッシュの中で視線を交わし、右手を出したのは村田だった。「自然な流れですね。僕も彼も試合前にメンチを切りあうタイプじゃない」。エンダムも軽く握り返す。微笑を浮かべる両者に好勝負の気配が漂った。

 落ち着いた口調。人生を左右する大一番3日前だが、表情には緊張より充実感が浮かぶ。「テレビで見た時より小さく感じた」。身長は村田の182・8センチに対し、181・2センチ。イメージの誤差を修正し、「似た体形。でも、僕がファイター、向こうがアウトボクシングというのは変わらない。そのぶつかり合いです」と生き生きと話した。

 試合当日の会場にも、そんな活気ある戦いを促す横断幕が掲げられる。南京都(現京都広学館)高ボクシング部OBにより用意された特製品には、部訓の「豪気」を英訳した「VIGOROUS FIGHT」の文字。壮大ですぐれた気性を指す「豪気」の英訳に、「強壮な、活気のある、活発な」を意味するVIGOROUSを選んだ。英訳した理由を、当時コーチだった西井一氏(51=現北桑田高教諭)は「村田がラスベガスでやるのを想定した」。世界王者で終わりではない。恩師は本場での活躍も確信する。

 「正々堂々と試合をしたい。待ち望んでいた。うれしいですよ」。言動からみなぎる活力。高校時代から体現してきたその雄姿で、世界の頂点に立つ。

◆村田諒太の比類なき「強打」
村田の連載「世界の頂から頂へ」の第3回は、村田の比類なきパンチ力に指導陣の分析から迫る。ここ一番で被弾を恐れずに大きく打ち抜ける勇気こそ、「黄金の拳」を黄金たらしめていた。

 殴る。その基本的な動作において、村田は己の拳が持つ絶対的な力を疑わない。「(数値を)測ったことはないですけど、殴りゃ強いと分かりますよ」。シンプルかつ最大の長所だ。

 ではその特徴は? プロ転向後からフィジカル面を指導する中村正彦コーチが例える。「村田は立ち幅跳びが得意なタイプ。上半身が強いので、助走がないところでも強いパンチを打てる。逆に遠いところから踏み込んで打つと体が流れてしまう」。同じ帝拳ジムに正反対のタイプ、WBC世界バンタム級王者山中がいる。「山中は走り幅跳びが得意なタイプ。助走が必要ですね」。本人も「パンチは下半身で打つ」が信条で、足から手先への力の伝え方が他選手より優れることを12度の防衛を重ねる理由に挙げる。一線級の選手でも、強打の内実は異なる。

 では村田はほぼ上半身だけで、なぜ巨大な力を生めるのか。中村氏は言う。「体を大きく使える。肩の回転というか、体の振りがすごく大きいのが特徴です」。大振りではなく、打つために体を回す範囲が広い。田中繊大トレーナーも「ここぞという時に思い切り振れる」と説く。同時に下半身の硬さも逆に利用しているという。「柔軟性、可動域が狭いのですが、上半身を振る分だけ、下半身も柔らかいと、体が流れてしまう。それを抑えられている」(中村氏)。

 本来柔軟に越したことはないが、自分の打ち方を冷静に分析し、硬さも武器に変えている。

 そして、何より特異なのは、そのパンチを打てる精神面だという。79キロほどの体で懸垂を容易に10回以上できる肉体の支えもあるが、2人の指導者が声をそろえる。振り幅が多くなれば、当然パンチを打つ時間も長くなる。コンマ何秒の攻防において、それは隙になる。パンチをもらう恐怖がそこに生まれるが、村田は違う。中村氏は「勇気がいること。それをできるのがすごい」。田中氏は「リングでびびったことがない」。その強打があることと、それを打てることは別。ためらいなく殴りにいけることこそ、村田の資質だ。

 今回の大一番へは持久力の向上を掲げてきた。最終盤でも、強打を打ち込める肉体を作り上げるため。高強度のインターバルトレーニングと組み合わせたのは「LSD(Long Slow Distance)」で、1キロ7~8分ペースで長時間走ることで、有酸素運動の能力をアップさせてきた。ボクサーのトレーニングとしては従来とは一線を画すメニューで、鍛え上げた。