仮面女子 | 斜視手術のアイドル


アイドルグループ「仮面女子」 神谷えりな
「仮面女子」の神谷えりなは、高校時代から斜視(開散麻痺〈かいさんまひ〉)に悩まされてきた。アイドルなのにファンの目が見られない。ものがダブって見え、立ち位置がわからなくなる。一時はアイドルを断念することも考えたが、2度にわたる手術を受けて、活動を続ける。
「左目が内側に寄っている」
3月下旬。東京・秋葉原の劇場に、「最強の地下アイドル」と呼ばれる「仮面女子」のメンバー、17人が勢ぞろいした。「仮面女子」はその名の通り、「仮面」をつけてパフォーマンスをする。曲の終盤、ファンのコールが起こるとアイドルたちはパッと仮面を取り、弾ける笑顔を客席に見せる。人気メンバーのひとり、神谷えりな(25)も、ファンのひとりひとりを指差しながら、視線でのコミュニケーションを楽しんだ。
「ファンの方と目が合うのが、こんなにもうれしいなんて」
神谷えりなは、高校時代から「内斜視(ないしゃし)」という目の病気に悩まされてきた。斜視とは、ものを見た時に、片目は正面を向いていても、もう片方が別の方向を向く状態だ。眼球の筋肉やそこにつながる神経に異常が生じた時に起こる。内側に向く「内斜視」、外側に向く「外斜視」。上方、下方にずれることもある。
神谷の場合、後天的に症状が表れた。高校2年生の時に、養護教諭から「左目が内側に寄っている」と指摘された。「一晩寝て休んだら治ることも多かったですし、それほど気にしていなかったんです」

目を細めて笑顔を作った
同じ頃、「トッピング ガールズ」というアイドルグループのライブ動画を見たことで憧れを抱き、事務所のオーディションを受けた。19歳でアイドル活動を開始、2012年、20歳の時に静岡県磐田市から上京した。
斜視の症状が重くなったのは、本格的に芸能活動を始めてからだった。一晩寝ても、黒目が元に戻らない。人目が気になって、前髪で左目を隠し、握手会でも伏し目がちにしていた。ファンとチェキ(インスタントカメラ)を撮る時は、瞳が目立たないように、わざと三日月のように目を細めて笑顔を作った。
アイドル活動には強い照明やカメラのフラッシュがつきものだ。暗い空間で長時間強い光を浴びるのはよくないと医師から聞いた。「症状が改善しなければアイドル活動を続けていくのは難しいかも……」。ライブ会場のトイレにこもって、泣いたこともある。
神谷の斜視は、より正確に言うと「開散麻痺(かいさんまひ)」という。遠くを見る時に目を離す「離し目(開散)」がうまくできない状態だ。神谷は、この診断にたどりつくまでに、30軒近くの医療機関を回った。
斜視を専門とする林孝雄・帝京大学医療技術学部教授はこう指摘する。「恒常的に目が寄っている斜視の場合は診断しやすい。しかし、症状が出たり出なかったりを繰り返す『間欠性』の場合、目のズレ方が日によって違うこともあり、なかなか診断がつかないことがある」。自分が住んでいる地域で専門医の診断を受けるためには、日本弱視斜視学会がホームページ上で全国の専門医のリストを公開しているので参照すると良い、と林教授は言う。

「世界がひとつに見える!」
さらに、神谷の場合、ものが二重に見える「複視」の症状が強かった。立ちくらみや頭痛もあった。自分がステージ上のどこに立っているのかがわからず、ダンスの隊形を乱したり、移動中にメンバーとぶつかったりすることがたびたび起こった。「あの頃はライブができなくて、休むことが多かった」と神谷は言う。
「私のように、世界の見え方が変わってしまうほどの斜視もあるんです」

現在の主治医である静岡県内の専門医にめぐりあい、ようやく「開散麻痺」の診断を受けた。視線のズレを矯正するため手術を受ける選択肢も提示された。1度目の手術を受けたのは2015年5月。リスクもある。眼にメスを入れるため、術後しばらくは白目の部分が充血して真っ赤になる。また、手術をしても再発の可能性は残る。
それでも、もう一度ステージに立ちたいという思いで、手術を受けることを決めた。

術後、はじめて目を開いた時、こんな言葉が口を衝(つ)いたという。「わあ、世界がひとつに見える!」
「今までみんなが見ていた世界がこれなのだとしたら、本当に素晴らしいことだと、心から感動しました」