★ 『恋するふたりの文学講座』

2012年。アメリカ。”LIBERAL ARTS”.
  ジョシュ・ラドナー監督・製作・脚本・主演。
 『ハッピー・サンキュー・モア・プリーズ』という印象はいまいちだったニューヨークが舞台の恋愛群像劇でデビューしたジョシュ・ラドナーの監督第二作目で、再び自分で主演も兼ねている。
 出演者が案外と豪華なことにつられて見てみたら、これがかなり面白かった。

 どういう経緯でかは不明ながら、加瀬亮が推薦のコメントを寄せている。≪人と文学や詩を語る楽しさがここにある。そして、すべての悩める人たちよ、ナットの言葉に耳を傾けろ!≫
 ナットとは、主人公ではなくチョイ役で出てくるザック・エフロンが演じる不思議なキャラクターの名前だが、さすが加瀬亮、この映画を見事に要約してコメントしている。
 恋愛ドラマのようで、実際は人と文学や音楽について語り合う楽しさがこの物語の面白さの大部分を占めている。

 メインストーリーのジェシーと女子大生ジビー(エリザベス・オルセン)との恋愛エピソードは、中年男ジェシー(ジョシュ・ラドナー)が良識人過ぎて、恋愛に発展することなく消滅してしまう。
 自分の年齢(35歳)からジビーの年齢(19歳)を計算式で引いて、16という年齢差の数字に打ちのめされるが、16という数字は87歳と71歳となると大した差異ではない、と奇妙な納得の仕方でジビーの住むオハイオへ出かける場面から事の顛末は予想がついていたことだった。

 リチャード・ジェンキンズが演じる老教授との師弟関係のエピソードが物語のアクセント程度で終わってしまったのが少しもったいなかった。このエピソードだけで2時間くらいのドラマになりそうな豊かさが感じられた。

 ジビーが語っていた、モーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』を聴きながら街を歩くと、周囲の人々が突然みんな魅力的に見えてくる、という実験は一度試してみたくなった。
   IMDb

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 エリザベス・オルセンが初々しくて世間知らずな文学かぶれの女子大生を素晴らしく見事に演じていて輝かしかった。
 ジョシュ・ラドナーは相変わらず髭面でうっとうしいが、登場人物の誰かが、「なぜだか理由はわからないが感じが良い。」と言った通りの好感の持てる人物で、これは役柄というより、ジョシュ・ラドナーのふだんの印象そのままが反映しているのだろう。

 ジビーの部屋で『トワイライト』を見つけたジェシーが、「あれは英語で書かれた文章の中で最もひどいものだ。」と言って口論になり、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』とオーデンの詩集をプレゼントする。ジェシーはヤングアダルト文学を文学とは認めず、その台頭に危機感を抱いている文学オタクだった。
 ジェシーが毎日通う書店で書店員のアナ(エリザベス・リーサー)と仲良くなるエピソードも微笑ましい。

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★ 『はじまりのうた』

2013年。アメリカ。”BEGIN AGAIN”.
  ジョン・カーニー監督・脚本。
 恋人がポップスターになり見捨てられた女性シンガー・ソングライターが、うだつが上がらないがアイデアは豊富なプロデューサーとニューヨークで出会い、二人で自分たちの音楽を発見するまでの物語。

 『ONCE ダブリンの街角で』という面白かった記憶はあるが内容は完全に忘れ去った映画の監督がキーラ・ナイトレイを主演に作った映画で、
 始めから終りまでキーラ・ナイトレイの歌の素晴らしさに感動しているうちにあっという間に終わってしまった。キーラ・ナイトレイの心の穏やかさとやさしさ、気取りのなさ、心に弱い部分があることを隠そうとせずにいる歌が見事だった。
 洋の東西を問わず女性シンガー・ソングライターのアルバムに異常な執着をしていた時期があった。結局、キャロル・キングとジョニ・ミッチェルが最高だと思う平凡なファンでしかなかったが、2002年から2007年あたりまでは、日本人の女性シンガー(ソングライターでなくとも)のアルバムはほとんど全部に近く買っていたような気がする。
 今でも時々聞くのは、辻香織、嶺川貴子、小谷美紗子、矢野絢子、原田知世、古内東子あたりだろうか。

 声を張り上げず、自然に肩の力を抜いて、上手に聴かせようとせず、アレンジに頼らず、生演奏に近い歌声を聴かせるシンガーを愛好していた。テイラー・スイフトも悪くはないが、キーラ・ナイトレイの方が好ましく、私が好きなシンガーの歌い方の理想形態に近い。
 決して上手な歌手ではなく、女優が本業の人がちょっと歌がうまかったという程度のレベルだと言われればその通りだが、女性シンガーに求めるすべてがこの映画の中のキーラ・ナイトレイの歌とたたずまいにあると言っても良いような気がする。

 おばさんになってからのキーラ・ナイトレイが意外と良い、と気づいたのは『恋と愛の測り方』を見た頃だった。
 キーラ・ナイトレイが歌も歌えるというのは驚きだったが、その歌を聴きながら、
 ライドのギタリスト、アンディ・ベルと結婚して子供を産み、1990年代に2枚のアルバムを発売した女性シンガー・ソングライター、イーダ(IDHA)のイメージが何となく連想された。イーダは離婚後、故郷スウェーデンに帰って工業エンジニアとして働きながら二人の子どもの子育てをしているという。
 イーダや他の女性シンガーのことはどうでもいいが、
 この映画のニューヨークのあちこちで演奏される曲がどれも素晴らしくて、1時間40分ほどの映画のはずだが、実際は25分くらいで終わってしまったように感じた。
 サウンドトラックアルバムを買って、ブルーレイが出たらそれも買いたい。
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 レコード会社を解雇されたプロデューサー役でマーク・ラファロが『フォックス・キャッチャー』のときとは別人のように目立たないように脇でダメ人間を好演している。
 キーラ・ナイトレイのダメな元カレはマルーン5のアダム・レヴィーン(さすがに歌がうまい)が演じる。『トゥルー・グリット』の娘役で印象深いヘイリー・スタインフェルドがお色気過剰の娘役で登場する。

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 懐かしのイーダのセカンドアルバム、『トラブルメイカー』。現在は廃盤のようだ。

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★ 『さよなら歌舞伎町』

2014年。『さよなら歌舞伎町』製作委員会。
  廣木隆一監督。新井晴彦・中野太脚本。つじあやの音楽。
 前田敦子と染谷将太が主演の映画かと思ったら群像劇だった。前田敦子と染谷将太は登場人物のひとりに過ぎない。歌舞伎町のラブホテルを舞台にグランドホテル形式で14人くらいの人々の人生の一日が描かれる。
 柳下毅一郎が『皆殺し映画通信』で酷評している。酷評に値するダメでトンチンカンな映画であることに間違いないのだが、
 ダメだとわかりつつも群像劇には、嫌いになれないエピソードがひとつあったりすると、つい愛着を感じてしまいがちだ。
 かつてローレンス・カスダン監督の『わが街』(1991年)という見直してみたら全く大したことのなかった群像劇映画に感動して以来その傾向は続いている。

 アカデミー作品賞を受賞したポール・ハギス監督・脚本の『クラッシュ』も一度目は感動したので見直してみたら、本当にひどいクズ映画であることが判明した。リチャード・カーティス監督の『ラブ・アクチュアリー』も同様に酷い。ただしどちらも嫌いな映画ではない。
 失敗作とみなされているエミリオ・エステベス監督の『ボビー』に至っては見終わろうとするとき感激して泣いてしまったほどだった。
 これよりダメな『グランドホテル』形式の映画は他にもたくさんある。
 源孝志監督で菊池成孔が音楽を担当した『大停電の夜に』(2005年、つまらないなりに案外面白かった記憶もある)、三谷幸喜監督・脚本の『THE 有頂天ホテル』(酷過ぎる記憶だけが残っている)など列挙に暇がないほどだ。
 ロバート・アルトマンのいくつかの映画を例外にすれば、優れた群像劇映画は、ポール・トマス・アンダーソン監督の『マグノリア』(1999年)と、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』の2本くらいしかないのではないか、という気さえする。
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 登場する俳優の中に熱演で印象深い俳優が何人かいた。
風俗嬢役のイ・ウンユ、その恋人役のアン・チョンス、風俗嬢に夢中の村上淳、風俗スカウトの忍成修吾、家出少女の我妻三輪子、不倫警察官の河合青葉と宮﨑吐夢など、
 松重豊と南果歩の二人の台無しなミスキャストとつまらないエピソード(松重豊と南果歩のふたりは本当にひど過ぎて、気の毒なほどで、キャリア上の汚点となることだろう。)以外はそう悪くはなかったような気もしてきた。
  廣木隆一監督は以前にも、『きみの友だち』という石橋杏奈、北浦愛、吉高由里子などが出演する青春群像劇を演出していたが、あの映画も実際甘ったるい映画で大した作品ではなかったのだが、嫌いにはなれない。

 傍から見たらつまらない人物にしか過ぎない男や女のために命がけで奔走する人物たちを情感豊かに描くのはデビュー作のピンク映画、『性虐!女を暴く』(1982年)の頃から一貫している。
 現在公開中で評判の悪い『ストロボ・エッジ』も見に行くつもりである。

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