新薬で重症アトピーが改善


若年層を中心に患者の多いアトピー性皮膚炎。その3割を占める比較的症状の重い患者に効果の期待される新薬が、国内で来年にも登場しようとしている。先行する米国では患者の約4割で大幅に症状が改善する試験結果が出ており、現場に光明をもたらすかもしれない。医師の注目度も高く、学会ではコストや副作用を考慮して、適切な使用法を示そうとしている。

 期待を集めるのは、米国で3月に承認された新薬「デュピルマブ」。成分は体内の異物を攻撃する役割の物質「抗体」で、疾病にかかわる体内のたんぱく質「IL―4」と「IL―13」の受容体に結合して両者の働きを抑えることで、皮膚症状を改善する。

米国の臨床試験(治験)では、既存の治療が効かない中等症から重症の患者が対象にもかかわらず、皮膚症状が完全に消えたり、ほとんどなくなったりした患者が約4割に上った。日本医科大学付属病院皮膚科の佐伯秀久部長は「1種類単独でこんなに効く薬はこれまでなかった」と語る。

 米国では新薬の承認までに通常1年かかる。この新薬はわずか6カ月で判断が下された。当局が「画期的治療薬」に指定し優先的に審査したからだ。成人向けで認可されており、小児の試験も計画中だという。日本では成人患者を対象に、企業が2月下旬に厚生労働省に承認申請をした。順調にいけば来年初めにも認められる見通しだ。

■患者自ら注射

 デュピルマブは注射して使う。承認から1年後には、専用の注射器で患者が自分で注射することが可能になる見込み。通院する頻度を少なくできる。

 アトピー性皮膚炎の薬物治療は一般に、ステロイドとタクロリムスの外用薬を併用する。これらを患部に塗って炎症を抑える。ステロイド剤は強さで段階的に分かれており、症状によって使い分ける。重い場合などには飲み薬なども使う。

 中等症以上の患者は約3割といわれる。症状は年齢とともに改善する傾向があるものの、ずっとおさまらない場合もある。特に外見の問題が大きいほか、かゆみによる睡眠障害なども生じやすく、社会生活に支障をきたすことが多い。

 重症患者には免疫抑制剤「ネオーラル」などを使うこともある。だがこの薬の場合、症状は良くなるが腎臓への悪影響などが懸念されており、長期間使用するのが難しい。佐伯部長は「デュピルマブは今のところ目立つ重篤な副作用は出ていない。ネオーラルより安全に使える印象だ」と話す。ただ長期使用に伴う副作用はまだ判明していない。

 気になるのはコストだ。デュピルマブは細胞を培養して作る「バイオ医薬品」の一種で高額になる見通し。例えば炎症性の皮膚疾患のバイオ医薬品では、薬剤費が月15万円かかる例もある。これと同等の薬価になるとみられており、患者の自己負担は月数万円になる見込みだ。日本皮膚科学会はコストや効果、副作用を考慮してデュピルマブを適正に使用するための提言をまとめる検討を始めた。

札幌皮膚科クリニックの安部正敏副院長は「デュピルマブ以外にも有望視されているものが複数ある」という。国内では、中等症以上を対象にした新薬開発が相次いでいる。

■治療法開発進む

 例えば日本たばこなどが開発中の「JTE―052」は塗り薬での承認を目指している。デュピルマブの次に開発が進んでいる。安部副院長は「塗り薬は全身に回る飲み薬や注射薬に比べて副作用の心配が少ない。処方する側にとって安心感がある」と言う。

 中外製薬が臨床試験をしている「ネモリズマブ」は、かゆみを抑える効果が強いといわれている。皮膚をかくことで悪化するのを繰り返す患者に使いやすい可能性があるわけだ。ただ抗体医薬なのでデュピルマブと同様に高価になりそうだ。

 アトピー性皮膚炎の治療は、日本皮膚科学会などの診療ガイドラインに沿って進められる。その中で近年、有効な薬の使い方として登場したのが「プロアクティブ療法」だ。同学会は2016年、治ったと思っても繰り返し症状の出る皮疹に対して初めて推奨した。

 この治療法は、症状が治まっても定期的にステロイド外用薬などを塗る方法だ。症状が再発する際は目に見えないレベルの炎症が起点となるが、その段階で炎症を抑えることで悪化を防ぐ。先制的な治療だ。安部副院長は「症状を抑えやすいと広まりつつあるが、まだ患者の約3割にしか浸透していない」と語る。

 新薬や治療法は確実に進展している。自分に最適な治療法を探るために、皮膚科などの専門医に相談する価値はありそうだ。

■30歳代以下の1割が罹患



 アトピー性皮膚炎は、患者数の多い病気だ。国内では30歳代以下の約1割が罹患(りかん)しているといわれる。

 例えば、厚生労働省の支援を受けた2000~02年実施の疫学調査では、生後4カ月から大学生までの有症率は、8.2~13.2%だった。約4万8000人を対象にした調査だ。また別の調査では20代は10.2%、30代は9%、40代は4.1%、50~60歳代は2.4%という報告もある。

 厚労省の2016年の患者調査によると推計患者数は45万6000人。継続的に医療機関を受診している患者数を推計したものなので、疫学調査の数字より小さく出ているとみられる。年齢別では19歳までが36%、20~44歳が44%と多くを占めるが、45~69歳は16%あり、若年層だけの病気ではない。

 症状の重さは大まかに、約7割が軽症、中等症が2割、重症以上が1割といわれている。「強いかゆみを伴う皮疹」が体表面積の10%以上にあれば重症となり、10%未満なら中等症、面積にかかわらず「軽度の皮疹」のみなら軽症と診断される。