“欲情”ほとばしる「エロタクシー」の実態


「泥酔して嘔吐を繰り返す女性を介抱するうち、女性のズボンがずり落ちて欲情した」。大阪・ミナミから泥酔したままタクシーに乗車した当時19歳の女性客の下半身を触るなどしたとして、準強制わいせつ罪に問われた元タクシー運転手の男(57)の公判が7月、大阪地裁で開かれた。男は起訴内容を素直に認めたが、公判では事件直前にも同様にタクシー内でわいせつ行為をしたほか、以前の勤務先でも車内での性行為が発覚して退社に追い込まれたことが明らかにされた。

 男が自己分析した犯行の原因は「気の緩み」。ゆがんだ欲情で女性の心身を深く傷つけた不埒な行為を直視しているとは思えない言葉だったが、反省の弁を繰り返し、執行猶予付き判決が言い渡された。

 「やめて」抵抗むなしく

 「友人とクラブに行き、トイレに行ったが、後のことは覚えていない。気づいたときにはタクシーの後部座席に寝ていた」

 7月6日に開かれた男の初公判。検察側は被害女性の供述調書を読み上げ、「やめてと言って抵抗した」などと犯行当時の状況を説明した。女性は自身が泥酔していたことも「私自身ベロベロに酔っ払っていたので落ち度はあった」と釈明しつつ、男への処罰感情が激しいことを訴えた。

検察側の冒頭陳述によると、男は犯行当日の今年2月14日、大阪市の繁華街・ミナミの一角で午前1時ごろから客待ちを続けていた。泥酔した女性が男のタクシーに乗車したのは午前4時過ぎ。後部座席に寝ていた女性はしばらくして嘔吐を始めた。

 男はタクシーを路肩に止め、後部座席の女性を介抱し始めたが、女性のズボンがずり落ち下半身の一部が見えたことでスイッチが入り、一気に欲情。女性のズボンや下着を脱がせ、下半身を触り始めた。

 「(運転手)仲間から『酔っ払ったお姉さんにわいせつなことをした』という話をよく聞いた。それで気が緩んでしまった」。弁護側の被告人質問に男はそう答えた。他の運転手らも同様の行為をしていたという供述の真偽は定かでないが、その後も男は「気の緩み」という言い訳じみたフレーズを繰り返した。

 泥酔状態で体の自由が効かなかった女性。「やめて」と言って足蹴りするなどしたが、男の支配下から逃れることができなかった。ようやくタクシーを脱出したのは午前6時を過ぎてからだった。

実はタクシーの車内には防犯カメラが設置されていた。前方から後部座席を含む車内を写すもので、今回の犯行の一部始終を捉えていたのだ。

 男は犯行の途中で運転席と後部座席の間にあるサンバイザーを動かし、カメラの視界から逃れようとした。ただ、カメラの映像や音声は自動的に転送され、勤務先の「ブラックボックス」に記録される仕組みだった。犯行途中で「目隠し」したところで意味はなかった。

 男は検察側からの質問に「(隠すのは)遅いんですが、何が何だか分かっていなかった。(女性が)騒いで嫌がる姿が写っているのが分かっていたのに…。まずいという思いがあった」と、当時の混乱した心境を説明した。

 しかし、男はさらに不可解な行動をとった。事件から3日後、男は自分のタクシーの防犯カメラを外して廃棄しながら、勤務先には「盗まれた」と申告した。前述の通り、映像はすでにブラックボックスに残っている。にもかかわらず、なぜ証拠隠滅的な行為を図ったのか。

 「カメラのことが頭から離れなかった。ブラックボックスのことは分かっていたが、外してしまった。とりあえず廃棄した」

 説明にならない説明だったが、法廷でそれ以上追及されることはなかった。

今回の事件で最も注目すべきなのは、男が事件前にもタクシー内で同様の行為を繰り返していた点だ。

 検察側の冒頭陳述などによると、男は運送業など職を転々とした後、平成19年ごろから前の勤務先でタクシー運転手を始めた。しかし、昨年10月に泥酔した女性とタクシー内で性行為をしていた不祥事が発覚し、退社した。

 同年12月に今回の勤務先に再就職後も、タクシー内で別の女性客にわいせつ行為をしたとして逮捕されていたという。

 男は検察側の追及に対し、都合の悪い部分を即答しないなど往生際の悪さを見せた。

 検察「以前勤めていたところをクビになった」

 男「いえ、自主退社です」

 検察「酔った女性と車内で性行為をしたからか」

 男「それが原因です」

 検察「車内でのわいせつ行為は、タクシー運転手としての職業倫理上、いけないことと分かっていた」

男「二度とタクシーには乗らないと誓った」

 検察「仕事のために乗るのはいいが、わいせつ行為をしないと誓ったのでは」

 男「自分の気の弱さ、緩み(が原因)ですね」

 検察「ほかに同じことはしていないですか」

 男「ほかは全然ない」

 検察「別の事件でも1回逮捕されている。今回勤めていた会社でしょ」

 男「下着をずらすまでしたが、騒がれてやめた。わいせつなことというか、いたずらをしました」

猶予判決…条件に性犯罪処遇プログラム

 事件当時の勤務先は取材に対し、男を採用した経緯について「以前の勤務先で問題を起こして退社したとしても、(把握するには)自己申告に頼るしかない。今回も採用時に退社の経緯は聞いたが、『いや、別に…』ということで、それ以上聞けなかった」と釈明した。今回の犯行とは別に、わいせつ事件を起こして逮捕されていたことは、男が会社側に申告しなかったためか、「知らない」と強調した。 

 勤務中に男が逮捕されていた事実を「知らない」とする会社側の説明に疑問は残るが、前回の事件は処分内容を含めて不明だ。

近畿運輸局によると、タクシー運転手が業務関連の犯罪などで有罪が確定した場合、タクシー業務適正化特措法に基づき、国への運転手登録を最長2年間停止できる。しかし、事件化しなかった不祥事や報道されなかった事件などは、運輸局側も「把握のしようがない」(担当者)ため、クビになった運転手が別の会社で平然と業務を続けることができるという。

 大阪市域(大阪市と隣接市)のタクシー台数は法人、個人合わせて約1万6600台(平成25年度)。夜になればキタやミナミの繁華街には客待ちのタクシーがずらりと並ぶが、客側としては、一体どの運転手が「危険」なのか見極めるすべがないのが実情だ。

 7月14日の判決公判。「嘔吐処理中に劣情を催した末の犯行で非難の程度は軽くないが、反省の意を示している」として、男に懲役2年、保護観察付き執行猶予4年(求刑懲役2年)が言い渡された。反省の姿勢が功を奏し、実刑判決は免れた。

 ただ、裁判官は犯行の原因が男の主張する「気の緩み」でなく、ゆがんだ「性欲」にあると考えたのだろう。「再犯を防ぐには専門家の指導を受けて改善を図らなければならない」と付言し、保護観察中の「性犯罪処遇プログラム」の受講を条件に付けた。