米国の特殊部隊と北朝鮮の特殊部隊はどちらが強いのか


今春の米韓合同演習は3月7日から4月30日まで実施される。動員される兵力及び軍備や装備面では米韓合同軍事演習史上最大規模の演習となる。

今年の演習の特徴は、北朝鮮の核・ミサイル基地を先制攻撃する「5015作戦計画」に基づき朝鮮内陸部への進撃、全面戦争をも想定した訓練が実施されることだ。この訓練のため北朝鮮に上陸する米海兵隊はステルス揚陸艦「ニューオーリンズ」を含む3千隻の同艦のほか、内陸に進撃した後の作戦をスムーズかつ立体的に行うためオスプレイ(空軍型垂直離着陸型輸送機)も投入することにしている。

本番を前に韓国にはすでに米陸軍1特殊戦団、米陸軍第75レンジャー連隊、米海兵隊特攻連隊、米空軍第720特殊戦術連隊、米海軍特殊戦団など特殊作戦を遂行する部隊が続々と送り込まれている。予行訓練も始まっており、最精鋭の空挺部隊をパラシュートで降下させ「敵地」深く侵入させる米韓合同訓練がソウル近郊で先月3日から18日まで実施されている。米韓がこの種の訓練を合同で行うのは初めてのことである。

「5015作戦」の中でもその核心は「斬首作戦」である。「斬首作戦」とは首を切断するということではなく、奇襲攻撃をかけて、権力指導部を排除し、攻撃を未然に防ぐ作戦のことである。そのため今回の演習では特殊部隊を極秘潜入させる米空軍のMC-130J支援機が投入される。

「斬首作戦」で要人の暗殺を担うのが米陸軍第75レンジャー連隊である。同連隊は2011年にイスラマバード郊外のアボタバードにある邸宅でビン=ラーディンを殺害したことから核・ミサイルの除去、制圧だけでなく、命令権を持つ金正恩第一書記ら最高指導部を暗殺、駆除する役割を担うものとみられる。

この「斬首作戦」の存在については韓国軍も否定してない。韓国国防研究院のプ・ヒョンウク国防戦略室長は2015年8月27日、「北朝鮮指導部は都市が核兵器で攻撃を受けるよりも、そうした報復(斬首作戦)を脅威と考えているはずだ」と述べている。また、米軍特殊部隊と共にこの作戦を遂行する韓国陸軍特殊戦司令部(特戦司)も「敵(北朝鮮)の戦略的核心標的を打撃するための特殊部隊の編成を推進している」ことを認めている。但し、「斬首作戦」の遂行条件はあくまで「北朝鮮が核兵器など大量破壊兵器を使用する兆候がある場合」に限定されている。

この「2015作戦」及び「斬首作戦」に北朝鮮がこれまで以上に危機感を抱いていることは2月23日に朝鮮人民軍最高司令部が重大声明を出したことからも伺いしれる。最高司令部の名による声明は2013年春の朝鮮半島危機の際にも出されたことはあったが、「重大」という名の付く最高司令部の声明は史上初めてのことである。

北朝鮮は米韓合同軍事演習で「『斬首作戦』に投入される特殊作戦兵力や作戦装備が少しでも動けばそれを事前に徹底的に制圧するための正義の作戦遂行に進入する」として「第一次攻撃対象は青瓦台(大統領府)と反動統治機関に向かう」と朴槿恵政権を威嚇している。北朝鮮が「目には目で、歯には歯で」で対抗するならば、「正義の作戦遂行」に特殊部隊を動員するのは明らかだ。では、米国の特殊部隊と北朝鮮の特殊部隊、どちら強いのか?

グリーンベレーやネイビーシールズ、陸軍第75レンジャー連隊など米特殊部隊はゲリラ戦を得意とする世界最高レベルの精鋭部隊である。どの部隊も優れた戦闘技能を備えていることは言うまでもない。特にネイビーシールズは「人狩りマシン」.で知られ、テロ組織の幹部を追跡し空から急襲する。 特殊部隊米陸軍1特殊戦団のデルタフォースはイラクでイスラム国(ISIS)に対する掃討作戦を行っている部隊として知られている。

米特殊部隊は空挺降下による強襲や敵の後方攪乱、爆破工作などを主な任務とし、敵後方での任務にあたるための縦深偵察小隊や特殊訓練を施された水中工作員も有している。敵地、敵部隊の偵察・斥候、正規部隊の先導といった突入任務の他に空挺部隊の降下地点の選定誘導、爆撃機や攻撃機の爆撃誘導など最前線で後続を確保するための血路を開く任務も主としている。1990年のパナマ侵攻の際にノリエガ政権を短期間で崩壊させ、パナマ全土を掌握するなどその威力をまざまざと見せつけた。

では、一方の北朝鮮特殊部隊の実力はどうか?

潜水艦による北朝鮮武装兵士浸透事件が起きた1996年、北朝鮮が米国のグリーンベレー、英国のSAS(特殊空挺部隊)等に比肩しうる強力な特殊戦部隊を育成していたことが判明し、米国を震撼させた。何よりも驚くのはその数だ。北の特殊部隊の兵力は8万から10万人と言われるが、これは世界でも類を見ない多さだ。

北朝鮮が特殊部隊に力を入れるのは、建国の父、金日成主席がゲリラ戦を得意とするパルチザン出身であったことと無関係ではない。金主席は1969年1月6日の軍党全員会議で「敵の後方に入って戦えば、原子爆弾よりももっと強力である」と述べたことがある。特殊部隊で中心的な役割を担うのは、軍総参謀部傘下の偵察総局と矯導隊指導局だ。

中でも矯導隊指導局は特殊部隊の戦力を強化するため1991年に総参謀部直属の部隊として発足し、5万人の兵力を有する最先鋭部隊である。同局は狙撃旅団、空軍狙撃団、航空陸戦団、軽歩旅団から成る。

狙撃旅団は戦争が勃発すれば、偵察大隊が作成した地図を基に先鋒として敵地に潜入し、ミサイル基地などの軍事施設を破壊し、産業・公共施設を速やかに占拠する役目を担う。原子力発電所などを戦略目標も攻撃の対象である。要人の暗殺も任務に含まれる。特殊任務を帯びた対南浸透隊員は夜間の戦闘訓練から格闘術まで訓練は多岐に亘っている。

空軍狙撃旅団は米韓連合軍が使用する飛行場、レーダー、管制施設、地対空ミサイル基地などを襲撃し、北朝鮮空軍の領域確保するのが任務。この部隊が生まれた背景には朝鮮戦争(195--53年)で瞬く間に制空権を奪われたことへの苦い教訓による。

航空陸戦旅団は敵陣の後方に落下傘降下して味方の主力が到着するまでの間、占領地域を確保するのが任務。危険かつ重要な任務のため航空陸戦旅団の隊員には自動小銃と実弾300発、それに弾倉4個、手榴弾4個が支給される。侵入する時にはレーダーにひっかからないようアントノフ2を使って低空飛行する。ちなみに北朝鮮の特殊部隊は韓国軍に偽装するための訓練も受けている。

軽歩旅団は有事の際、背後を突いてくる米韓の落下傘部隊に対処する。平時は、平安北道の熙川や咸鏡南道の咸興に駐屯して、毎日超人的な訓練に明け暮れている。30kgの軍装備を背負って6時間以上行軍することも、2,3日一睡もせず、160kmを歩くこともいとわない。

北朝鮮の特殊部隊隊員の思想教育は特に徹底しており「将軍様の命令とあれば、爆弾を抱えて敵陣に飛び込むことも辞さない」との「特攻精神」で武装されている。実際に2009年4月に衛星と称する長距離弾道ミサイルを発射した際には日米のイージス艦による迎撃に備え、14人の空軍パイロットから成る特攻隊を編成し、爆弾を搭載して、そのままイージス艦に突撃する訓練を行っていた。潜水艦による北朝鮮武装兵士浸透事件で韓国軍に唯一拘束された李光洙人民軍偵察局上尉は「死を覚悟している者には怖いものはなにもない。そのような教育を受けてきた」と筆者に語っていた。

4月8日、米国政府は原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近海へ派遣すると発表。その前日7日、米軍は突如シリアに59発の巡航ミサイルを撃ち込み、シリア軍の軍事施設を破壊していました。

9日に出演したTV番組で、ティラーソン国務長官は「他国への脅威となるなら対抗措置をとる」と強調。「アサド政権が化学兵器を使用した」と断定する米国政府がシリアをいきなり攻撃したことは、核開発やミサイル実験を続ける北朝鮮への警告だったと示唆しました。

その規範的な評価はさておき、一連の行動にはトランプ政権の特徴がいかんなく発揮されています。それは「何をするか分からない」と周囲に認識させ、敵対する者に譲歩を余儀なくさせる手法です。これは北朝鮮の十八番である「瀬戸際外交」と、構造的にはほぼ同じものといえます。

「瀬戸際外交」の構造
北朝鮮は、分不相応ともいえる核・ミサイルの開発を推し進め、しかもそれをわざわざ誇示してきました。周辺地域を頻繁に不安定化させることで、北朝鮮は各国から「何をするか分からない面倒な国」という認知を得てきたのですが、それは意図的なものといえます。

通常の国であれば、そのような評価は全く名誉なことではありません。評判を一つの利益と考えるなら、北朝鮮はわざわざ自分の利益を損なってきたように映ります。ただし、何を「死活的な利益」と捉えるかはそれぞれで異なります。

いまの北朝鮮政府にとって最大の利益は、体制の維持と、それを米国に認めさせることにあります(その意味では、「生存」という最低限の利益を重視しているともいえる)。その核・ミサイル開発は、多少なりとも有利に交渉を運ぶため、自分を大きくみせるためのものといえます。

その際、重要なことは、ただ「持っているのをみせつけること」だけでなく、「実際に用いるのを躊躇しないという意思を相手に認識させること」です。これがなければ、「こけおどし」とみなされ、相手にとっての脅威にはなりません。

つまり、北朝鮮は執拗なまでに核・ミサイル実験を繰り返すことで、「普通の国なら撃たないタイミングでも撃ちかねない国」と各国に思わせ、それによって相手の譲歩を引き出し、自分の最優先の利益(生存)を確保してきたといえます。

「相手はまともでないのだから、自分が譲らなければ、正面衝突というお互いにとっての最大の損失に行き着く」と思わせ、相手に「自発的に」譲歩させることが、北朝鮮の常套手段である「瀬戸際外交」の本質といえるでしょう。確信犯的に非合理的な行動をとることで相手の合理的判断に働きかけて譲歩を迫る構造は、チキンゲームと呼ばれます。

トランプ版の瀬戸際外交
ところが、シリアへのミサイル攻撃から朝鮮半島へのカール・ビンソンの展開に至る米軍の行動は、少なくともその構造だけを抽出すれば、北朝鮮のお株を奪うほどの瀬戸際外交といえます。

まず、シリアへの攻撃は国連決議などを経たものでなく、シリア政府が「侵略」と呼ぶことも、ロシアやイランが「国際法違反」と指摘することも、その限りにおいては誤りでないでしょう。

ここでのポイントは、そこまで露骨な違法行為を、米国があえて行ったことです。

繰り返しになりますが、米国のシリア攻撃に法的根拠は乏しく、さらに米国にとってシリアの化学兵器が差し迫った脅威であるわけでもありません。つまり、米国は「普通の国なら撃たないタイミングで撃った」のです。

米朝が正面から衝突すれば、北朝鮮は言うまでもありませんが、米国も、そしてその同盟国である日韓も、少なくとも無傷では済まないでしょう。さらに、中国やロシアも難しい選択を迫られます。つまり、米朝の正面衝突は、関係各国にとって、避けなければならない最悪の結末です。この混乱を避けるため、オバマ政権は「戦略的忍耐」とも呼ばれる選択を余儀なくされたといえます。

しかし、今回のシリア攻撃で、トランプ政権は北朝鮮と攻守を入れ替えたことになります。今や「いざとなったら、脅しでなく、本当に撃たれる」と認識せざるを得ないのは、そして正面衝突という双方にとって最悪の事態を避けるために、「何をするか分からない相手」に譲歩を迫られているのは、北朝鮮なのです。

瀬戸際外交の「寸止め」
北朝鮮の場合もそうですが、「瀬戸際外交」は正面衝突の寸前まで突っ込み、ギリギリのところで相手がかわしてくれることを期待して、あえて理不尽な振る舞いをする戦術です。しかし、相手に「かわす」という選択をさせるためには、緊張を高める一方で、「ここでなら、賭けを降りても、最低限のこちらの利益は確保される」というポイントを相手にそれとなく提示することも必要になります。

トランプ政権の場合、それは北朝鮮の「体制の維持」を認めることです。4月9日、ティラーソン国務長官は北朝鮮の「体制の転換(レジーム・チェンジ)」には関心がないと言明しました。それは言い換えると、「大量破壊兵器の開発を控えるなら、体制の存続を認めないわけではない」というメッセージを北朝鮮政府に送ったことになります。

先述のように、北朝鮮政府にとっての「死活的な利益」とは、現在の体制の維持に他なりません。だとすると、トランプ政権による威嚇は、北朝鮮政府の首脳部に、「核・ミサイル開発を諦めれば、最優先事項である体制の維持は認められる」という選択の余地を示していることになります。

一方、トランプ政権にとって重要なことは、北朝鮮が大量破壊兵器の開発をこれ以上進めて、米国にとっての脅威とならないことです。ティラーソン氏の発言は、米国にとっての「死活的な利益」が守られるなら、それ以外のことは大目に見る、というメッセージと読み取れるのです。

シリアへの寸止め
同様のことは、シリアについてもいえます。

今回のシリア攻撃は、国際法を逸脱した米軍の行動という意味では、2003年のイラク侵攻と同じです。しかし、この時はフセイン政権の打倒(体制の転換)のための「実際の戦闘」を目的にしたものでした。

それに対して、シリアの場合、米軍の攻撃目的はあくまで化学兵器使用に対する懲罰(仮にアサド政権が化学兵器を用いたとしても、米国にそれを処罰する権限があるかはともかく)であり、「二度と化学兵器を使うな」という「威嚇」です。そして、トランプ政権は「アサド退陣」の要求を念入りに避けています。

つまり、いきなり攻撃することで、トランプ政権は「何をするか分からない」とアサド政権に思わせながらも、「化学兵器さえ用いなければ、(アサド政権にとっての死活的な利益である)『体制の転換』までは求めない」というメッセージを発して、譲歩を迫っているといえるのです。

中国への「脅し」と「配慮」
北朝鮮に話を戻すと、トランプ政権が瀬戸際外交を展開しながらも「体制の転換」を明確に否定したことは、中国に対しても「脅し」をかけていることになりますが、それと同時に「配慮」でもあるといえます。

シリア攻撃に先立つ米中首脳会談の直前の4月2日、トランプ氏は「北朝鮮問題で中国が積極的に動かないなら、米国が単独で行動を起こすこともある」と発言していました。

米国が実際にシリアを攻撃したことは、「米国は何をするか分からない」という認識を、北朝鮮だけでなく、北朝鮮と経済取り引きを続けることで、その大量破壊兵器開発を事実上可能にしてきた中国にも持たせる効果があったといえます(米国のシリア攻撃を中国政府は「主権侵害」と批判している)。その意味で、シリア攻撃は、中国にとって、米国に譲歩して北朝鮮への働きかけを強めざるを得ない状況を生んだといえます。

ただし、中国にとっては、朝鮮半島で大量破壊兵器の開発が進むことと同様に、北朝鮮の現体制が崩壊することもまた、避けたいところです。そんな事態になれば、数多くの難民が中国国境に押し寄せることは、目に見えています。

つまり、北朝鮮に対して「『体制の転換』は求めないが、大量破壊兵器の開発だけは認められない」というトランプ政権の方針は、中国のそれとほとんど差がないことになります。トランプ政権が、大量破壊兵器の放棄を条件に、「体制の存続」を暗黙のうちに認めたとなれば、(いい加減北朝鮮を持て余している)中国にしても、北朝鮮への働きかけをしやすくなります。

後ろ盾となっている国に対して「ちゃんと子分のしつけをみろ。さもないと撃つぞ」と脅しをかける一方、「大量破壊兵器の問題に始末をつけるなら、体制の転換までは求めないから、それをエサに子分を納得させればいい」と提案を示している点では、アサド政権を支援し続けてきたロシアに対しても同じといえます。

「瀬戸際外交」の応酬
とはいえ、トランプ政権の「瀬戸際外交」が効果をあげるかは不透明です。北朝鮮に関していえば、その最大の障壁としては「米国に対する不信感」があげられます。

1953年に朝鮮戦争が休戦になってからも、北朝鮮と米国は「敵国」であり続けました。そのため、米国への不信感で固まっているといえます。

そんな北朝鮮政府にとって、最悪の事態は「大量破壊兵器を諦めた後になって体制の転換を求められること」です。実際、リビアのカダフィ体制は、米国との関係改善のなかで、それまで開発中だった核兵器を放棄した後になって、2011年からの「アラブの春」の混乱のなかで、NATOが支援する反政府軍によって倒されました。これをみていた北朝鮮政府にとって、トランプ政権からの提案を受け入れることは、容易ではありません。

さらに、米国からの「『脅し』に屈した」となれば、北朝鮮国内で政府の権威は丸潰れで、それこそ体制がもちません。

これらに鑑みれば、北朝鮮政府がトランプ政権に対して「超強硬」な反応を示すことは、当然です。したがって、金正恩第一書記の就任5周年などの行事が目白押しの4月中に、北朝鮮が核・ミサイル実験を行うかが、チキンゲームが加速し、緊張がさらにエスカレートするかの、一つの焦点になるでしょう。

しかし、その場合には、トランプ政権も後に引けなくなります。「米国は本当に何をするか分からない国」と北朝鮮に思わせるため、「威嚇」ではなく「攻撃」がホワイトハウス関係者の視野に入ってきたとしても不信感ではありません。つまり、「ただの威嚇でない」ことをみせつけるための、米軍が限定的な軍事活動を実際に起こす可能性は、かつてなく高まっているといえます。

4月11日に北朝鮮政府が「米国からの攻撃があれば核攻撃を行う」と宣言したことは、米軍の先制攻撃の可能性を予見したものといえます。また、米国に譲歩を迫るためには、米国にではなく、日本を含む周辺国に限定的な攻撃を行うという選択肢も考えられます。

いずれにしても、十八番を奪われてなお、北朝鮮には「瀬戸際外交」しか選択肢がないといえます。しかも、それはトランプ政権の「瀬戸際外交」で加速しているといえるでしょう。

トランプ政権のシリア空爆は、米国にとって越えてはならない一線を越えたら、軍事力を行使する決意を実際に行動で示したことになる。特に、米中首脳会談最中にシリアへの軍事行動に踏み切ったことは「中国が北朝鮮の核開発阻止に協力しなければ、米国が独自に行動する」とのトランプ大統領の警告が決してハッタリではないことを見せつける結果となった。

これに対して北朝鮮外務省は8日の談話で「一部にはシリアに対する米国の軍事攻撃が我々に対する警告的行動であると騒いでいるが、そんなことに驚く我々ではない」と米国の威嚇を一蹴した。逆に「シリアの事態は、我々に帝国主義者らへの幻想は絶対禁物である」と述べたうえで「今日の現実は力には力で対抗し、核武力を常時強化してきた我々の選択が千万回正しかったことを立証した」と、核兵器を軸とした自衛的国防力を引き続き強化することを強調した。

仮に金正恩政権が米国のシリア空襲に恐れおののいているなら、容易には6度目の核実験に踏み切れないだろう。換言すれば、史上最大規模の米韓合同軍事演習の最中に、それも3月中旬に演習に参加し、引きあげたばかりの原子力空母「カール・ヴィンソン」が再び朝鮮半島に派遣されている状況下で、それもシリア空爆の後に核のボタンを押すのはよほどの覚悟ができなければできない。

(参考資料:北朝鮮の核実験が見送られる可能性はないのか?)

全長333メートル、全幅76.8メートルの9万3千トン級の「カール・ヴィンソン」は戦闘攻撃、電子攻撃、海上攻撃を行う飛行隊が搭乗しており、「FA18」など爆撃機24機、対潜ヘリ10機、「E2C」など早期警戒機4機、電子戦機「EA18Gグラウラー」なども含め90機が搭載されている他、地対空迎撃ミサイルも多数搭載されている。3月中旬に釜山に入港する前に朝鮮半島周辺の海域で実戦に向けての戦闘訓練を実施していた。いつでも攻撃可能だ。

米軍がその気になれば、軍事演習期間中のグレナダ侵攻(1983年)や自衛権の発動と称して特殊部隊をはじめ陸海空から成る5万人以上の米軍を侵攻させ、ノリエガ将軍を除去したパナマ侵攻(1989年)の再現はないとは断言できない。

逆に、金正恩政権がそれでもボタンを押した場合、今度はトランプ政権が決断を迫られることになるだろう。シリアへの空爆に踏み切った理由が「化学兵器の拡散と使用を阻止することが米国の安全保障にとって死活的な重大な問題である」ということならば、北朝鮮の核実験も、また米本土を標準に定めた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射もまた米国の安全保障にとって極めて深刻な脅威である。シリアを叩いて、北朝鮮を叩けないということなら、北朝鮮外務省の「米国は核を持ってない国だけを選んで攻撃している」との主張を正当化することになりかねない。

また、米中首脳会談後、ティラーソン国務長官はABCの番組でシリア攻撃は北朝鮮に対するメッセージかとの質問に対し「国際的な規範や合意に違反したり、約束を守らなかったり、他者を脅かしたりすれば、いずれ対抗措置がとられる可能性が高いという全ての国へのメッセージだ」と答えていた。

北朝鮮の核実験やミサイル発射は明らかに国連安保理決議に違反している。また、日韓や北東アジアの安全と平和を脅かしているのは自明だ。それでも米国が「対抗措置」が取らなければ、トランプ政権の北朝鮮への警告はブラフとみなされ、金正恩政権は今後、トランプ政権を見くびることになるだろう。

では、トランプ大統領はシリア同様に北朝鮮を攻撃できるだろうか?

米国はクリントン政権時代(1992-2000年)の1994年に一度だけ、北朝鮮への攻撃を真剣に検討したことがあった。

クリントン大統領は全面戦争という最悪のシナリオに備え1994年5月19日、シュリガシュビリ統合参謀本部議長らから戦争シミュレーションのブリーフィングを受けた。シミュレーションの結果は「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲戦争費用は610億ドルを超える。最終的に戦費は1千億ドルを越す」という衝撃的なものだった。

当時、極東に配備されていた在日米軍3万3千4百人と在韓米軍2万8千5百人を合わせると、約6万2千人。なんとその約8割が緒戦3か月で被害を受けることになる。駐韓米軍のラック司令官にいたっては「南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からして米国人8万~10万人を含め(民間人から)100万人の死者が出る」と報告していた。

ブッシュ政権下(2001-2008年)でも武力行使のオプションが排除されることはなかった。

ブッシュ大統領は2003年2月、米陸軍士官学校の卒業式で「我々は自由と生命を守るため先制措置(先制攻撃)を取るなど積極的で断固とした態勢を備える」と、「悪の枢軸」扱いした北朝鮮を威嚇し、翌2004年2月10日に訪米した中国の江沢民国家主席に対し「(北朝鮮の核問題が)外交的に解決できなければ、北朝鮮への軍事攻撃を検討せざるを得ない」と密かに通告していた。このことは退任後の2010年11月に発売されたブッシュ大統領の回顧録「決断の瞬間」の中でも明らかにされている。 

北朝鮮が2006年、2009年と2度にわたって核実験をした後も先制攻撃のオプションは排除されることはなかった。また、オバマ政権下(2009年~)でも北朝鮮が人工衛星と称して2009年4月にテポドン2号を発射した際にはゲーツ国防長官が「迎撃も辞さない」と言明していた。この時、迎撃の意思をロシア政府に事前通告していた。

また、米太平洋軍のロックリア司令官もソウルの米韓連合司令部での会見(2012年4月17日)で「北朝鮮が3度目の核実験を試みた場合、基地に対して局地攻撃を加える可能性もある」と発言していた。

さらにドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)もまた、ニューヨーク市内でのオバマ政権のアジア太平洋政策をテーマにした講演(2013年3月11日)で「米国は米国を攻撃目標にできるような核ミサイルを開発しようとするのを傍観しない」と発言していた。

しかし、すべてはブラフで終わっていた。行動が伴うことはなかった。その結果が今の北朝鮮である。

オバマ政権下の最後の国防長官、アシュトン・カーター氏は2006年にワシントン・ポスト紙にクリントン政権時代の国防長官だったウィリアム・ペリー氏と共同で「必要なら、攻撃し破壊せよ」と題する論文を寄稿し、北朝鮮に対する先制攻撃論を展開していたが、北朝鮮が核実験(2006年10月)を行った後は、持論を変え、韓国紙(「中央日報」2007年1月7日付)のインタビューで「北朝鮮の核兵器を効果的に除去するための外科手術的攻撃はもはや不可能である」と述べていた。

北朝鮮は1994年の時と違い、今では核とミサイルを保有している。米本土は無理としても、韓国に対してだけでなく、同盟国である日本への攻撃は可能だ。

オバマ大統領は昨年1月22日のユーチューブのインタビューで「軍事的な解決は考えていない」と強調し、その理由について「我が同盟国の韓国が北の真横に接していて、もしも戦争が勃発すれば想像を絶する、深刻な被害を韓国は受けるから」と説明していた。

今や、戦争による被害は韓国に留まらない。同盟国の日本にも、米国自身にも及ぼす。従って、先制攻撃の能力はあったとしても、簡単には手を出せないだろう。

北朝鮮が核実験に続き、米国にとってのレッドラインであるICBMを米国の先制攻撃を覚悟のうえで発射した場合、トランプ大統領がどのような結論を下すのか、まさに究極のチキンレースである。

豪紙デーリー・テレグラフが10日付けで当局筋の話として報じたところによると、米政府はオーストラリアなど同盟諸国に対し、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、迎撃する態勢が整ったと通知し、厳戒態勢で備えるよう要請したとのことだ。

事実ならば、同盟国の日本にも同じような通知があったのではないだろうか。実際、日本は米中相会談直後の7日に河野克也統合幕僚監部幕僚長命令に基づき海上自衛隊のイージス艦3隻(4隻体制のうち1隻はドッグで修理中)を日本海に緊急展開させている。

トランプ政権が原子力空母「カール・ヴィンソン」を朝鮮半島近海に再び急派したのもその関連とみて間違いない。「カール・ヴィンソン」は左右に駆逐艦2隻と巡行艦1隻を伴っているが、どれもイージスレーダーを備えており、1000km外の弾道ミサイルの追跡が可能だ。また、「海上のTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)」と称される高度1000kmまで撃墜可能なSM-3を搭載している。

北朝鮮のミサイルについてはオバマ政権時からペンタゴンは撃墜を検討してきた。金正恩党委員長が今年の「新年の辞」で北朝鮮初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射準備が「最終段階に達した」と発言した際にもカーター国防長官(当時)が「我々を脅かすものであれば、また我々の同盟や友人を脅かすならば撃墜する」(1月8日)と迎撃を示唆していた。

(参考資料:知られざる北朝鮮ミサイルの威力)

また、米国防省ミサイル防衛局(MDA)のシリング局長は翌日の1月9日、ブルームバーグ通信とのインタビューで「米国の防御システムは信頼できる。北のICBMを迎撃できる」と述べ、ICBMが発射された場合、ミサイル防衛網を指揮する北部司令部が迎撃する計画を明らかにしていた。

北朝鮮のミサイル発射は今年に入って4回行われているが、一番新しいのは米中首脳会談直前の4月5日のミサイルで失敗に終わっている。こうしたことから失敗したミサイルの再発射、あるいは北朝鮮初のICBMの発射が金日成主席生誕105周年(4月15日)や朝鮮人民軍創建85周年(4月25日)に際して強行される可能性が指摘されている。

シリング局長は米国の追加迎撃試験を4月から6月の間に実施すると発表していた。ならば、この期間に北朝鮮からミサイルが発射されれば、まさに「飛んで火にいる夏の虫」である。折角のターゲットを撃墜しない手はない。着弾地点に関係なく仮に日本列島を飛び越え太平洋(米国)に向かって飛んで来るならば迎撃の可能性は極めて高い。

当然、北朝鮮の反撃次第では、軍事衝突を覚悟しなければならないが、昨年11月に韓国に赴任したブルックス駐韓米軍司令官は「我々はあらゆる 準備態勢を整えていく中で戦争という最悪の状況は避けたいが、戦争をするしかないという、そういう瞬間には戦争を準備すべきだろう」と語っているので、覚悟も、備えも十分に出来たうえでの迎撃となるだろう。「カール・ヴィンソン」の朝鮮半島近海への急派はそのための布石とも言える。

では、北朝鮮はミサイルを迎撃された場合、反撃するのか、あるいはできるのか?

米国はオバマ政権下の2009年にゲーツ国防長官(当時)は北朝鮮が「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射に「発射すれば迎撃も辞さない」と威嚇したことがあった。今と同じく、韓合同軍事演習の真っただ中にあった2009年4月のことである。

これに対して北朝鮮人民軍参謀部は「(米国が)人工衛星に迎撃行動をとれば、迎撃手段だけでなく、本拠地にも報復打撃を開始する」との声明を出し、そして4月5日に予告通り発射を強行した。

北朝鮮国防委員会の朴林洙政策局長は長距離弾道ミサイル発射の直後に訪朝した元米国務省元高官に対し「迎撃は戦争行為と見なし、わが方はただちに空軍機で迎撃ミサイルを発射した日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と語っていた。

(参考資料:北朝鮮の対日核攻撃はあり得るか!?)

当時、日米両政府はミサイル本体や燃焼後のブースター(推進エンジン)が日本の領土領海に落下する事態に備え、日本海に「ちょうかい」など2隻のイージス艦を配置、米軍と共同でミサイル防衛(MD)システムによる迎撃も検討していた。

驚いたことに「イージス艦撃沈」の指示は最高指導者の金正日総書記ではなく、当時まだ25歳の金正恩氏から出されていた。実際に金正恩政権が発足した2012年、自身の28歳の誕生日にあたる1月8日に放映された「金正恩活動記録映画」をみると、金正恩氏はミサイル発射を父親と共に平壌の管制総合指揮所で参観していた。映画のナレーションでは「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との金正恩委員長(当時党中央軍事委員会副委員長)の言葉が流れていた。

北朝鮮は日米のイージス艦に対する攻撃手段として特攻隊を編成し、スタンバイさせていたことが、2015年3月に金委員長が航空部隊を視察した際に朝鮮中央通信が「(2009年4月の)光明星2号(テポドン)の発射成功を保障するため作戦に参加し、偉勲を発揮した14人の戦闘飛行士らの偉勲を称えた記念碑の前で記念写真を撮った」と報道したことで判明した。

偉勲を称えられた14人は「党の命令貫徹のため死を覚悟し、決死戦に出た戦闘飛行で肉弾自爆した」と紹介されていたが、実際には自爆はなく、飛行訓練で1人が亡くなっただけで、残り13人は健在だった。彼らは、日本的に言うならば、「特攻隊」であった。

当時と違い、8年経った今では、北朝鮮のミサイル性能も向上し、地対艦ミサイルも保有しているのでこうした原子的手法を使うことはないと考えられるが、今回は2009年の時と違って、「人工衛星」ではなく、明らかに軍事用のミサイルの発射である。それが、日本、米国に向けて発射されれば、迎撃の対象となるのは当然である。迎撃されたからといって、反撃はできないのではないだろうか。