プリンセス・プリンシパル:第10話『case22 Comfort Comrade』感想

緑色の火を焚べるマッチ売りの少女、雪と血の雨降るクリスマスキャロル、嘘つきピノキオ達の悲しいダンス。
スパイたちの美しい御伽噺は、いつだって真っ白な嘘に塗りつぶされていく。
プリンセスプリンシパル、第10話です。

涼やかな態度の裏に、麻薬にすがる弱さと切なる思いを抱え込んだ委員長が、スパイとして生きて女として死んでいくCase22となりました。
ここ三話ほど、笑いとか優しさとか、スチームパンク・ロンドンの光の部分が強調されていたわけですが、スパイ育成校『ファーム』の同期三人が嘘の奥に真心を、優しさの奥に殺意を隠す今回は、苦い闇が強調されるエピソードとなりました。
Lが主導するチェンジリング作戦によって守られていた少女たちのモラトリアムが、ジェネラルによるプリンセス暗殺指令へと切り替わる、クライマックスへの潮目。
そこでもう一度、『嘘をつく職業』とそれに向かない少女たちの内実に、冷たい雪のナイフで切り込んでいくお話となりました。


というわけで、激重クソデカ感情女が、話のど真ん中に居座る今回のエピソード。
カッチリした外見の優等生でありながら、麻薬で身を持ち崩したアモラルな雰囲気と、ドロシーの快活さに憧れ続けた激情を併せ持つ、なかなか存在感のあるゲストでした。
思わず身を乗り出して顔を見たくなる魅力が、エピソードゲストにしっかりあると、話にグイッと引き込まれて力強いですね。

今回のお話はスパイ任務はあくまで前菜であり、委員長のダブルスパイ容疑を追いかけるサスペンス……というのもまた前座。
本当の謎は誰が委員長の心に突き刺さっているかという、想いのミステリです。
『万年二位の優等生』というポジションを、台詞でも立ち居振る舞いでも強調し、その対となるアンジェに感情が向いてると思いきや、視線の先には常にドロシーがいる。
優秀なスパイ、つまり人間失格の諜報機械だからこそ、人間らしい甘さを隠そうとしない劣等生に惹かれ、クリスマスの暖かな夢を胸に抱えて、ここまで生き延びてきた。

アンジェとの幼い思い出を秘めてスパイを続けられているシャーロットと、ドロシーへの思いを隠し続けたアンジェは、やはり優秀なスパイとして似た者同士だったのでしょう。
心を押し殺し、人を撃ち殺す機械として完成されているからこそ、鏡合わせの二人は引かれ合わない。
自分とあまりにもかけ離れていて、だからこそ魅力的な相手を追い求めたという意味で、二人の同期はとても良く似ています。
委員長とドロシーの関係が、アンジェとシャーロットに重ね合わされているとすれば、発動したプリンセス暗殺計画の終わりもまた、己の死で持って最愛の人の心に署名を残す結末になるんでしょうかね。

背筋を伸ばし、髪の毛を結い上げた委員長は、ヴィジュアルからして非常にカッキリした印象を受けます。
いつも以上にドロシーがフニャフニャぬらぬら、力の抜けたナチュラルな仕草をしていることで、二人の魂の色が正反対であること、だからこそ委員長がその灯に引き寄せられたことが、スムーズに伝わる。
これに対しアンジェはいつもどおり、黒蜥蜴星のどこか余所余所しく、堅苦しいスタイルです。
最愛の人以外に体重は預けないし、それを心の一番奥に秘めている者たちの仮面は、非常に分厚い、ということなのでしょう。

アンジェと委員長が向かい合っている酒場前半のシーンと、アンジェが席を外し、ドロシーと委員長だけになったシーンの対比が、ここら辺の色彩を凄く鮮明に見せてくれます。
アンジェに操を立て仮面を外さないシャーロット相手には、ツンと済ました距離感のある態度。(これがライバルゆえの対抗意識だと、ミスリードの仕事もやっているのが見事)
未成年組を帰し、エールで気さくな関係になった時は、ちょっと重心が前掛かりになって警戒をほぐしてたスタンス。(アルコールは父から受け継いだ堕落の遺伝子であり、委員長の身を蝕む麻薬の変奏でもある)

心情を吐露しなくても、仕草の中に想いは溢れてしまっていて、だからこそ最後の告白がサプライズとして機能しつつ、納得もできる。
非常に巧い空気の作り方だと思います。
委員長のそういう態度は、アンジェが隠しているものと同質で、言葉にはせずとも伝わっているから、委員長は嘘の巧い『優秀なスパイ』たるアンジェには体重を預けない。
ある種の同族嫌悪で距離を作りつつ、スパイとしては不出来で、人間としてあまりに魅力的なドロシーの明け透けさを、委員長は手に入らない灯火と知りつつ追い求めます。

スパイになった時点で人間らしい幸福は遠く、麻薬と裏切りでスパイとしてに任務も果たせないどん詰まりで、銃弾で愛する人を貫くのではなく、己を貫くことで爪痕を残すことを選ぶ。
人間と機械の間で、一足早く旅立っていった同志が見せた、あまりにも悲しい決断。
それが人間が人間らしく生きられないスパイの無情を際立たせていて、キャラを通じて世界とドラマを描く、いい展開だったと思います。


秀才に敵愾心を抱かれる天才……という『嘘』を背負って、話の真ん中にいるように見えて今回端役なアンジェは、委員長という鏡がいることで、その姿がより鮮明になりました。
心安らぐHomeではなく、諜報機械を量産するFarmから生まれ、もはや同志も三人だけになってしまった人非人たち。
しかしそこには、世界を焼き尽くすほどの濃厚な思いがあって、一足先に銃弾に貫かれた委員長は、胸に封じていた炎を吐き出し、ドロシーの心に焼きごてを当て、舞台から去りました。
ここまでプリンセスへの強すぎる想いを見てきた視聴者からすると、嘘の仮面で思いを押さえ込むことの無理を見せられた気がして、穏やかには見れませんでした。

脱落者を量産する、ファームの厳しい訓練。
それをアンジェが乗り越え、その後のスパイ生活を続けられたのは、胸の奥にアンジェとの思い出がアレばこそです。
それは委員長が懐き続けたクリスマスの奇跡、オレンジ色に輝く優しい雪世界の幻が、彼女を支え、あるいは焼いたのと同じこと。
『アナタ、弱くなったわ』と吐き捨てる委員長もまた、直接アンジェを撃ち抜くのではなく、白い蒸気で全てを覆い隠し、命を取ろうとはしない。
話がクライマックスに差し掛かるこのタイミングは、主人公にあまりによく似たスパイの破滅と激情を描いてきたのは、主人公がどういう人物で、それを軸に回転する物語がどういうものであるかを再確認する意味合いが、かなり強いと感じました。

かつての友を仇と追い回し、死に追いやらなければいけないスパイの宿命。
冷たい列車の屋根に張り付いて構えた銃は、委員長だけではなくドロシーも捉えていたのでしょう。
そういう世界に生きつつ、少女たちの心はとても柔らかく揺れている。
司令室で命令を受け取った時の時計の振り子、あるいはドロシーと帰還する車中で揺れる前髪。
それを表に出せば死ぬしかないけど、消してしまえば己が無くなってしまうような、か細く危うい炎。
ここまでの物語は、少女全てがそういうものを必死に守りながら、抑圧と差別と強制に満ちた世界で生き延びる(あるいは死んでしまう)お話だったと思います。

ならば、過去と現在が照応するように、現在と未来とまた相照らすのでしょう。
メイフェア校の博物学サークルという、優しい『嘘』(であり、彼女達の魂の瑞々しさを思えば『真実』でしかない場所)を許容してくれていたLは去り、軍が主導権を握って潮目は変わった。
委員長が秘書をやっていたシーンで、あるいは第3話や第6話といった軍が絡むエピソードで、海軍再編と大戦の火種について語っていた伏線が、最後に結実した形ですか。
心の最奥にずっと秘めてきた、世界で一番大切な灯火をその唇で吹き消せと命じられた時、黒蜥蜴星人は嘘で自分を守るスパイの生き様を選ぶのか、はたまた密やかに息づいてきた心の脈動に従うのか。
その狭間でもみくちゃにされた女が、麻薬でズタボロになり、銃弾で無残に死んだ今回を思うと、苦い表情になってしまいます。


『優秀なスパイ』の巨大感情と、それを覆い隠す嘘の仮面に挟まれ、ドロシーはあくまで柔らかく、優しく振る舞っています。
台詞を飛ばしスピーディに描写される最初の任務シーンでは、『ファーム』上がりのベテランとして業前を見せますが、真実の任務のどん詰まり、委員長の堕落と死を前にすると動揺し、涙を隠しきれない。
そのスパイ失格の、つまりは人間らしい反応があればこそ、委員長はドロシーを灯火と、届かない一瞬の夢と思い続けたのでしょうが。
ホント、みんなスパイ向いてないなぁ……ここが徹底しているのが、作品z寝たいに緊張感とやるせなさを与え、『どうにかなってくれ』って思いを自然と引き出す勘所だな。

例えば劣等生仲間であるベアトとの親しい距離感を見れば判るように、ドロシーはみんなに優しい。
でも、委員長が仮面の奥に秘めていた激情には全く気づかず、そういう鈍感さが委員長の堕落……Wスパイとしての真実を見落とさせる……おっぱい見せて誘惑するより、こういう純朴さこそが人誑し・ドロシーの本質なんだろうなぁ。
気づかないからこそ、委員長はドロシーを思い続けることが出来たって側面もあると思うので、なかなか難しいですが。
ここら辺は両思いを確認して地獄に飛び込み直したアンジェと、すれ違いの片思いの果てに目の前で死んだ委員長との違いだなぁ……どっちも救いがなさそうなのは、変わりがないけど。

委員長を麻薬の沼に落としたのが、Wスパイの元締めだとすると、ドロシーは父に続いて親友も、ノルマンディー公に奪われたことになります。
第6話で父の無残な遺骸を見ることなく、だからこそあまりにも陽気に痛ましくその帰還を待っていたエンディングと、今回目の前で起きた惨状。
見える死も、見えない死も、どちらに救いがあるわけではなく、どちらも同等に悲惨だと描く意味で、ドロシーを中心に繰り返される略奪は、非常に高い効果があると思います。
委員長の自害を暗転などで飛ばすことなく、血と脳症が吹き出た死骸までしっかり描いた辺りに、製作者のドロシーへの愛情とサディズムを強く感じますね。
俺も好きだよ、ドロシー。

様々な形で吹き出す悲惨は、別に個人的悪意から生まれているわけではなく、王国と共和国に挟まれたスパイという機械が、必然的に命を巻き込んだだけの結果。
ノルマンディー公も巨大国家という機械を運営する責務を果たしているだけだし、国家もまた、差別と収奪を潤滑油にして、当たり前に回り続ける。
その無関心な残忍こそが、シャーロットとアンジェがぶち壊したい『透明な壁』なのかな、と思う。
その正体と真意を知らないまま、砂かぶりで地獄を浴び続けるドロシーは、マジ災難だと思うけども。


Caseも22を数えるのに、ベアトは相変わらずスパイとしてはドン亀で、そのことが人間試験合格を証明もしている。
『優秀なスパイ』になるってのがどういうことかは、今回委員長が嫌ってほど教えてくれたしね。
白い雪のように当たり前に降り積もった『嘘』が、全てを塗り固めてしまう世界の中で、どうにも機械にはなりきれないスチームパンク・サイボーグの姿が、一瞬の癒やしだったりもします。
犬笛代わりに喉を鳴らす秘密兵器っぷりよりも、車の運転も人殺しも全然うまくならない不器用さが、ベアトの有用性なのかもしれんね。

あと、一瞬挟まれたちせとプリンセスのカットは何だったんだろう……女の感情がベッタリと降り積もる本筋から、空気を抜くシーンだったのか。
先週の話を踏まえると、あの奇妙な鹿威しを、ちせのスタイルをアルビオン式に再現してみた、歩み寄りの象徴と見ることはできそうだけども。
無力な空気姫が周囲の権力と殺意を前にして、用意できるのはあの程度の玩具……とまで読んでしまうと、確実に過剰な読みだな。

コントロールの頭がすげ変わり、プリンセス暗殺指令が出たのはいかにも最終局面って感じがして、興奮するやら恐ろしいやら。
コントロールはあくまで背景でしかなく、この物語の重点はプリンシパルの小さな温もりと連帯にあったわけですが、描かれない場所で起こった政争こそが、その小さな幸せを押し流す激流であるというのは、なかなかに皮肉です。
挿げ替えの背景を『君たちの知る必要のないことだ』と切り捨ててくる辺りが、まさにコントロール……制御室って感じだな。
実働する手足/労働者層と、コントロールが代表する政治の世界は切れているわけだ。

非情な現実を握り込みつつ、プリンセス達のままごとめいた日常/人間性を許容してもくれていたLが(一旦?)去るのは、なかなか象徴的だと思います。
僕はこのアニメを『父』との対立という軸で(も)見ているわけですが、物分りよく自由を認めてくれるLが去り、高圧的で情動に反した指令を落としてくるジェネラルに変わったのは、『父』の二つの顔がよりノルマンディー公に似た側……押し付け、殺してくる側に偏った印象を受けます。
『父』の押し付けてくる既存の権力構図をすり抜け、あるいは欺瞞するゲリラ戦法こそが、女でありスパイでもあるプリンシパル達の闘争法だったわけですが、非常に直接的な指令が出た次回以降、各員はどう立ち回るのか。

世界の冷たいルールに迎合する器用さと、それに飲み込まれきれない秘めたる真実、その両方が少女たちの中で同居していることを、このアニメは丁寧に描いてきました。
社会構造の中で、それが健全に昇華出来るのならば問題はないのですが、そんな甘っちょろい『普通の手段』をスチームパンク・ロンドンが許してくれないことは、(第7話以外)ずっと描いてきたことです。
機械と人間、『父』と『娘』に引き裂かれざるをえない世界の中で、今週一人の姉妹が終わりにたどり着いた。
プリンシパルの少女たちもまた、それぞれの思いと事情を抱えて、引き裂かれた世界のどちらに飛び込んでいくか、決断する瞬間が近づいています。


世界の果てに追い込まれた委員長が、最後に夢見た灯は、スパイ候補生でも人殺しでも、優等生でも劣等生でもなく、ただ自分が自分として笑える遊園地。
それはマッチ売りの少女が、暖を取ろうと燃やした燐寸が見せた幻にもにた、幸せだった時代の幻影です。
でもそういうものが無ければ人は生きていけないし、どれだけ残酷な世界に『嘘』を強要されても、人は柔らかく、暖かい家の夢を見てしまいます。
その灯火が吹き消されたときが、人間を完璧なスパイに、心を殺した機械に返る瞬間なのでしょう。

殺人機械を生産するFarmの中にも、絆を育むHomeは生まれてしまう。
それがどれだけ救いのないどん詰まりに行き着くとしても、天才と秀才と劣等生、三人だけのFarmの生き残りを繋げていた絆には、本物の温もりがあったのでしょう。
そしてそれは、ここまで積み重ねられ、僕らの心をひきつけたプリンシパルの柔らかな繋がりと、全く同じものです。

世界の残酷さに慄きつつも、スパイにあまりに向いていない女の子たちの小さな奮闘を見守り、応援してきた身としては、今回見たどん詰まりとは別の場所に、なんとかたどり着いて欲しいと祈ってしまいます。
プリンセス暗殺指令によって、プリンシパルという集団、それを形成する瑞々しい魂達が、どのような状況に追い込まれ、どんな決断をするのか。
余談を許さぬクライマックスに飛び込むこのアニメ、来週も非常に楽しみです。