プリンセス・プリンシパル:第9話『case11 Pell-mell Duel』感想

謀略の暗がりの中を一筋の希望を探して飛ぶ白鳩たちの英国早春賦、今週は学園で決闘で下着姿な石鹸エピソード。
ってもプリプリなんで、寄宿学校とクソ差別の描写はガチだし、ちせが纏う鍋島武士の血生臭さは本物だし、プリンシパル土俵入りは真顔でやりきるから死ぬほど面白い。
『東洋人』という異物であればこそ受ける差別と偏見、プリンシパルの仲間がそれを乗り越えて伸ばしてくれる手、どうにか仲間になりたいちせの純情。
色んなものが感じ取れる、柔らかな番外編でした。

というわけでCase巻き戻って11、第5話の血戦、第4話の活撃が終わって、ちせ殿がまだプリンシパルに馴染みきっていない時代のお話。
逆に言うと、決闘とコルセット相撲プリンセス土俵入りというイベントを経たからこそ、後のCaseではちせ殿もすっかりプリンシパルに馴染み、仲間として絆が深まったわけですが。
ここら辺の『逆算の面白さ』は、ドロシー親子の世知辛さの後に同じ足場から幸福を描き、あり得たかもしれない可能性、それが失われたやるせなさを際立たせた第6話・第7話に通じるものがありますね。

お話全体を見てみると、ちせを主役に据えてこの時代の日本の立場、スチームパンクロンドンの『普通』を切り取り、これまでメインステージとして扱われなかった学園を目立たせる感じの話ですね。
クイーンズ・メイフェア校の綺羅びやかな日常と、スパイの薄暗い暗闘は分かりやすい明暗になると思うのですが、あえて避けているかのように大きな役割は与えられてきませんでした。
シーン単位ではそれなりに出ているのですが、メインはあくまでスパイ活動。
嘘で塗り固めたカバーで自分を守りつつ、英国社会の上から下まで詰まってる泥を描くのに忙しくて、学園生活にフォーカスしている機会がなかった感じです。

プリンセスたちにとって学校生活は安住の地ではなく、切り取るべきものは日常という名前の仮面より、英国社会の上層と下層に広がるギャップ、ということなのかもしれません。
『学園生活でキャイキャイしつつ、その裏側では血みどろの殺し合い……』という分かりやすいギャップよりも、強調したい裂け目が学園の外に山盛り広がってるので、そっちを優先的に見せてきた、というか。
女王(プリンセス)にとっての優先事項(プリンシパル)は、名門校の恵まれた平穏ではなく、死と差別が横行するイギリスの現状……なのかな。
生まれから言っても、メイフェア校の特権意識はプリンセスにとって、安心より違和感のほうが強いだろうしねぇ。


とは言うものの、メイフェア校も差別渦巻くアルビオンの学校であり、それは異邦人たるちせを主役にすることで鮮明になる。
腕力と家柄を傘にきて、国と命を侮辱するキャメロン兄弟にしても、学生らしい隠微な陰口でガチャガチャ抜かしてくるリリにしても、ちょっと戯画化されてはいるものの、アルビオン貴族のスタンダードという感じです。
国籍・性別・身分にナチュラルに差別を押し付け、それを恥じ入ることもない『普通』からすると、東洋人を心底仲間と思い、畳に一緒に座ってくれるプリンセスたちは、『変な英国人』にほかなりません。

ちせ自身も異国を思いっきり誤解していて、蕪は投げつけるわ漬物は臭いわ法螺貝は吹くわ、すれ違いは深刻です。
しかしちせは、自分なりの方法で英語を学び、異国の風習を尊重して己をなじませようという努力と敬意がある。
その素直さは、『同年代の仲間達と、もっと打ち解けたい』というピュアな気持ちと、不思議と響き合うものです。

対して、支配者然とふんぞり返り、弱々しい蛹の羽化を見守ることすら出来ないキャメロン兄弟は、歩み寄りの気配すら見せません。
一方的な拒絶と侮蔑に怒ったちせは、決闘という武士的な儀礼を用いてコミュニケーションしようとするわけですが、西洋式決闘にも文化コードがあり、白い手袋は(蕪から少しマシになっていても)交渉手段として機能しない。
「カンフーは使うなよ?」という嘲るの裏には、眠れる龍・中国は認識していても鎖国から目覚めたばかりの日本は目にすら入っていないアルビオンの『普通』が透けて見えるし、そこを飛び越えて対等な関係を結ぶべく、堀川卿は智慧を駆使しているわけです。

ここでプリンセスが助け舟を出し、西洋的文化コードをちせに教え、正式な決闘=交渉が遂行されるよう助力するのは、なかなか面白い。
プリンセス自身もスラムのガキから王宮のコードをゲロ吐きながら身につけた立場であり、東洋から西洋へのコード変換を友人のために担当するのは、渡りに船という感じなのでしょう。
異質な場所で適切なコードを使いこなせないこと、ピエノが引けないこと、乗馬もダンスも出来ないことがそのまま死に直結していたプリンセスにとって、ちせが陥った『真面目に向かい合ってもらえない』という状況は、他人事ではなかったのかもしれません。

フェアを謳いつつ、細工された拳銃を渡される。
外交でも決闘でも、相手の文法に乗っかるということは利益を誘導される、ということです。
ここでちせは武芸百般無敵のサムライ、"軍艦落とし"の藤堂十兵衛の弟子という、非常に東洋的で個人史的なコードを引っ張り出し、用意されたアンフェアさを実力でひっくり返します。
ボウタイという西洋的な意匠を、印地打ちの武器へと切り替える機転は、異郷にて奮戦する才女・藤堂ちせの面目躍如といったところでしょうか。

プリンセスの助けを借り、西洋式のコードに登用の誇りを翻訳して、決闘を成立させる。
あるいは公平さを装ったアンフェアを逆手に取り、自分の強みを見せつけて成果を引き出す。
これは維新の結果否応なく西洋世界に飛び込んでしまった日本の姿そのものでもあり、四面楚歌の状況でアルビオンの『普通』をひっくり返そうと企むプリンセスの戦術でもあります。

友情と打算にかこつけ、王国と共和国を両天秤にかけて最大利益を引き出そうという、堀川卿の冷静。
あるいは譲歩を引き出す実力としての暴力を否定せず、譲れないもののために戦うちせを支援しつつ、盗聴器設置というミッションを果たしてくるプリンシパルの強かさ。
世界を支配するコードを握り込む、強者≒父の側に立てない異邦人あるいは空気姫がどのように、既存の権力構造を当前視している連中と戦っていくか。
その構図が、ちせの奇妙な決闘と重ね合わせられているように思えます。


そういう冷酷な利害計算を含みつつ、弱者たちの関係は情に満ちています。
情報を集めるだけの走狗に出すには、甘すぎ高価過ぎる菓子をちせに振る舞い、満更でもなさそうな堀川卿。
『スパイの分をわきまえろ』といいつつ、そこからはみ出した感情の発露、正義の遂行を喜ぶプリンシパルたち。
『スパイをスパイする立場』と自覚しつつも、若々しい友情と交流を心から望んでしまうちせ。
『スパイは嘘をつく職業』と呟きつつ、心の柔らかい部分に蓋をしているアンジェと同じように、皆優しくて、でもその優しさのままに生きられない立場に追い込まれた、アウトサイダー達。

そういう人達の歩み寄りは、ちせの西洋理解と同じように、ズレと笑いと敬意と優しさに満ちている。
僕ら日本人の視聴者が知っているように、なにか良いことがあったからと言って日本人は土俵入りしないし、太鼓も叩かない。
でもそれは、生まれかけの蛹を蹴り飛ばし、祖国を嘲笑うような歪んだ視線からではなく、間違っていても優しさ、自分とは違う存在を真っ直ぐに見ようという思いから生まれたものです。
あんまりにも完璧なタイミング、完璧な演出(全て真顔でやりきるのが大事)でやられたんでむせるほどに笑いましたが、一息ついた後『ああ、なんか良いな』と思えました。

これまでもこのアニメでは、血なまぐさいスパイの因縁の中に情があり、優しさと理想があり、でもそれを全うに世界に問うことが許されていないアウトサイダー達のやるせなさが、幾度も切り取られてきました。
学園というアジールを舞台に、スパイの仕事が殆ど出てこない今回は、これまでの物語とは主客が転倒した話だとはいえます。
しかし最後、思い出したかのように『スパイの仕事』というこれまでの主題が出てくるように、これまでの逃げ場のないお話と今回の物語は、ちゃんと地続きだと思います。

殺した殺されたのスパイ的暴力ではなく、血が出たら止めにすることが出来る外交的暴力が展開すること。
すれ違う嘘が致命的な破滅ではなく、思わず笑ってしまうコメディの色合いを強く帯びていること。
色々変化している部分もありますが、ポジティブな変化の物語だった第7話と同じように、これもまたスチームパンク・ロンドンの一相なのでしょう。

とすれば、今回光に満ちて清潔な学舎の中で、ひどく幸せにじゃれ合っていた女の子たちの青春も、また嘘ではない。
銃弾と偽りが幾重にも重なって逃げ場所がないようにみえるスパイの世界で、一瞬だけ演じられた優しさと交流は、たとえ残酷な世界がそれを踏みつけにしようとしても、確かに真実なのでしょう。
今回見たバカバカしく、柔らかく、年相応の真心と交流が、ロンドンを覆う差別と暴力のスモッグに隠されてしまうものなのか、はたまた透明な壁をぶち破る原動力になるのか。
それは先を見なければ判断しかねる部分ではあります。
しかしやっぱり、すっかり彼女達が好きになってしまっている自分としては、嘘と忠義で作った鎧の奥、心のひどく柔らかく尊い部分で守っているものが、報われてほしいなと願ってしまいます。
ホントなー、胸を張って世間に顔向けできるような、嘘のない生き方をこの子達にさせてあげてほしいんだよ俺は!


さておき、ちせを主役=話の中心点としてみた時、偏見を乗り越えて側に寄り添う/畳に正座し(間違ってるけど)相撲取りの衣装を着てくれるプリンシパルと、立ったまま蹴り飛ばすキャメロン兄弟は、『融和と拒絶』という対極にいます。
クラスメートとして、同じ女として、リリがその中間点でウロウロしているのは、なかなか面白いところです。
トイレという女しか入れない場所で、命をかけた決闘に至るほどでもない差別の棘をチクチクさせつつ、接近と阻害を繰り返してくる存在。、
そういう相手には取り込み戦術をちらつかせ、隙を作って情報アドバンテージを取りに行く辺り、プリンセスの外交上手がよく見えます。
『まだ話が通じる相手』としてリリ≒女とやりあった事が、『話が通じない相手』としてキャメロン兄弟≒男と向かい合う展開の序奏になってるのも、なかなか巧いとこですな。

学園という偽りの日常が長く描写されることで、スパイをやってる時は見えない距離感が図れたのもとても良かったですね。
ベアトとはルームメイトでクラスメイトの気安さか、非常に仲良く暮らしていたり。
他のメンバー、特にプリンセスとは距離を感じている描写が、逆にそこを埋めたいと願うちせの純情を際立たせもいて、とても良かったです。
『プリンセスは何かを隠しているんじゃないか』というちせの印象は、そのまんま視聴者が感じていたことであり、その印象を巧く操作できたからこそ、先週の真相公開がカタルシスとして機能したのでしょう。
エピソードをどういう順番で見せて、どういう印象を与えて、その連鎖をどう仕上げていくかという細工に、この作品はとても意識的だし、効果的でもあると思います。

全体的に呑気でおバカな話なんですが、だからこそちせの鍋島スイッチが入る瞬間、プリンセスが笑顔で外交戦争を仕掛ける瞬間がビッと引き締まり、緩急がありました。
のんびりコメディやれる楽園であるかのように前半を進めつつ、そこが煤まみれのロンドンと全く地続きであると思い起こさせる瞬間を印象づけて、話のジャンクションを切り替える鮮明さ。
そしてそれを、決闘が終わった後のトンチキ土俵入りの呼び水に使い、笑いの火力を上げる巧さ。
イヤホントさ~、アンジェが真顔で背後に立って、スナップの効いた良い太鼓さばき見せるのホントずるいって~。


というわけで、まだちせがプリンシパルの白い鳩になりきる前の、滑稽な異文化コミュニケーションのお話でした。
朗らかな笑いを燃料に話を進めつつ、ロンドンを覆う差別の透明な壁、それに立ち向かう弱者のメソッドを描き続ける筆は止めず、しかも今回じゃないと拾えないモノをしっかり切り取る。
ちせの異邦人ギャグを楽しく飲み込ませることで、ズレつつも歩み寄り合うプリンシパルの絆が、ほっこりと胸を温めてくれました。

拒絶し愚弄するのが『普通』の、スチームパンク・ロンドンには染まりきれない白い鳩たち。
『変な英国人』と『変な日本人』と『変な黒蜥蜴星人』が、運命と残酷に押し流されてたどり着いた、儚くも尊い宿り木。
今回見せた、人間として当たり前の情と笑いと誇りが、当たり前には通用しないスパイの世界で、彼女達はどんな軌跡で飛んで行くのか。
コメディ回が来たことで逆に身が引き締まるのは、少女たちを覆う闇の濃さ、それでも消えない光をしっかり描いてきた証明でしょう。

ついにクライマックスにさしかかる話数ですが、さて、どのような運命が待っているのか。
ここまで身を乗り出してしまったら、最後まで見切るしか僕らには許されていません。
願わくば、幸福と誇りが彼女達に訪れるよう祈りつつ、来週を待ちたいと思います。